痔ろう

痔ろうの原因

『あな痔』『穴痔』は俗称であり、医学的な正式病名を『痔瘻(じろう)』といいます
まず痔瘻を説明するのに欠かせない肛門の構造の理解です。
赤ちゃんが、お母さんのおなかにできたての時は、おしりの皮膚にくぼみがあるだけでまだ肛門はありません。
だんだん成長するにつれて徐々にそのくぼみが、深くなってきて、同時に上からは腸が徐々に下がっていきます。そして胎生7~8週(妊娠2か月)でドッキングしてお尻に肛門が形成されますこのドッキングがうまくいかないで生まれてきてしまう赤ちゃんの病気を『鎖肛』といいます。出生した赤ちゃんの数千人に1人くらいの割合で発生します。

直腸と肛門のドッキングした この 『でこぼこしたつなぎ目』部分を『歯状線(しじょうせん)』といいます。この歯状線のドッキングした『でこぼこしたつなぎ目』には、いくつかの小さな穴があります。これを『肛門陰窩』といいます。
ただこの穴(肛門陰窩)にたまたま、細菌(主に大腸菌)が入ってしまうことがあるのです。(まるでルーレットの穴にボールが入るようにどこの穴に入るかはわかりません!)そしてこの穴(肛門陰窩)は肛門腺という括約筋の方に伸びている管に繋がっており、細菌は肛門腺に沿ってさらに侵入して奥に入り込んでいきます。 
この感染した細菌の入り口を『原発口』といいます。
そして、その細菌が瘻孔をつくり(トンネルを掘り)ながら結果的に肛門の周囲に巣を作ってしまう病気(細菌の巣)を『あな痔(痔瘻)』と言います!そしてその出口を「二次口」といいます。

痔ろうと肛門周囲膿瘍

たいていの場合、細菌は二次口に出る前にトンネルを掘るのに疲れて、途中で膿を溜めはじめます。この状態を『肛門周囲膿瘍』もしくは『直腸肛門周囲膿瘍』といいます。
この『膿みの部屋(膿瘍腔)』が大きく膨張してくると炎症や腫脹が強くなり、熱が上がり、痛みが強くなってくるので、膿みを外に放出させる必要があります。
結果的に、膿みを出した穴が出口になり『二次口』になります。
ただ 浅い(肛門周囲)膿瘍の場合は、局所麻酔にて穴を開けることで膿瘍は流出(切開排膿)できますが、
深い(直腸肛門周囲)膿瘍の場合は、腰椎麻酔や全身麻酔を使用しないと痛みが抑えられず、また膿瘍の場所に的確に穴を開けることはできません。

痔ろう・肛門周囲膿瘍の症状

浅い肛門周囲膿瘍の症状は 発熱、肛門の付近の皮膚の腫れと痛みですが
深い肛門周囲膿瘍(直腸周囲膿瘍)は深い位置に膿瘍が貯留するため、皮膚からは触れず、発熱と伴に肛門奥の重い感じや排便困難を呈します。
切開排膿されると痛みや発熱などはおさまり治ったかのように症状が軽快しますが、痔ろう化した二次口から膿汁や浸出液が出て下着を汚したり、皮膚のかぶれからかゆみを呈したりします。浅い痔瘻の場合は肛門皮膚から瘻孔(トンネル)のしこりが触れます。

痔ろうを放置するリスク

膿瘍がおさまり、痔瘻化すると症状が軽快するため、そのまま放置されてしまうケースがあります。しかし、原発口には細菌の入口が開いたままですから再び細菌が侵入し、膿瘍を溜め、細菌が別のトンネルを作り出す(枝分かれ)と痔ろうはどんどん複雑化してしまいます。火山でたとえると
20年以上痔瘻を放置し、炎症を繰り返し、複雑化してくると根治手術も大変になってきますし、「痔ろうがん」に変化する場合があり大変危険です。

痔ろうの分類

細菌は、浅いところに居つくものもいれば、深くまで穴を掘り下げてしまうものもいます。深いところまで穴をほじってしまった痔瘻を深部痔瘻といいます。
つまり簡単に分類すると

  • 浅くて単純なトンネル(痔瘻)
  • 浅くて複雑(途中で枝分かれした)なトンネル(痔瘻)
  • 深いトンネル(痔瘻)

となります。
それを肛門周囲の筋肉の走行によって以下の4つの部屋に分けた分類が痔瘻の分類として一般的に使われています。
『痔ろう』の頻度としては浅い痔ろうが痔ろう全体の約8割を占めます。
その中で 肛門腺から内肛門括約筋と外肛門括約筋の間を皮膚の方に下降する
『低位筋間痔ろう』がほとんどを占めます。

痔ろうの手術

痔ろうの手術において大事な点は2点あります。

  1. 細菌の入口である「原発口」を確実に処理すること
  2. 肛門付近に走行する「肛門を締めるために必要な筋肉」のダメージを極力少なくし術後の肛門機能を温存すること

です。

①細菌の入口である「原発口」を確実に処理すること

細菌の入り込んだ肛門陰窩は粘膜のめくれ込みを呈しています(原発口)そして、巣を作り、その内部の巣には、常に細菌が居ついていて自然と閉じることの期待できない部分(原発巣)です。
いったん痔瘻が治癒したように見える期間があっても、粘膜のめくれ込み部分が残存していると、そこから再び汚物が侵入して炎症が再燃されてしまい膿瘍が溜まってしまうのです。つまり、『細菌の流入路である“入口”の処理』=『原発口+原発巣』の処理が痔ろうを治す最重要課題ということになります。
痔瘻を構成するものを 樹に例えるならば 根は痔瘻入り口である原発口と感染の源である原発巣であり、幹は枝の部分は瘻管部分そして枝先は二次口と言えます。
つまりこのような痔瘻という樹を枯らすためには原発口、原発巣である、樹の根っこ部分を処置することが最低限必要であり、そうすれば結果として枝である瘻管は必然と枯れていくというわけです。これは浅い痔瘻だろうが深い痔瘻だろうが枝分かれした痔瘻(複雑痔瘻)だろうが同じことです。

②肛門付近に走行する「肛門を締めるために必要な筋肉」のダメージを
極力少なくし術後の肛門機能を温存すること

その処理をする際になるべく筋肉を傷つけず、それでも損傷してしまった筋肉の再建(縫合など)を加えて、なるべく術後肛門機能を温存させ、後遺症(肛門が緩む)を少なくしていく手術が理想となります。

痔ろうと炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎・クローン病)


『潰瘍性大腸炎(UC)』や『クローン病(CD)』は常に下痢傾向のため歯状線付近の炎症から肛門陰窩に細菌が入りやすく、『痔ろう』になりやすい環境です。
『クローン病(CD)』はさらに 肛門付近に潰瘍もできやすく、そこからも細菌が入りやすい状況になります。そもそも『痔瘻』の術前に 大腸検査した結果、炎症性腸疾患(IBD)が見つかったといったケースもよく見られます。

  • 『たまたま、肛門陰窩に細菌が入って痔瘻になってしまった』のか
  • 『炎症性腸疾患を密かに患っており、結果的に肛門付近から細菌が入って痔瘻になってしまった』のか

を必ず『大腸内視鏡検査』をして区別しておく必要があります。