『切れ痔・裂け痔(裂肛)』とは?

『切れ痔・裂け痔(裂肛)』とは?
『切れ痔・裂け痔(裂肛)』とは?

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寺田 俊明 Toshiaki Terada

寺田 俊明Toshiaki Terada

  • 理事長
  • 院長
  • 大腸肛門病センター長

寺田病院HP:
https://terada-hospital.or.jp/

『切れ痔・裂け痔(裂肛)』 とは?

『切れ痔』『裂け痔』は俗称であり、医学的な正式病名を『裂肛』といいます。

力士まあ、簡単に言えば肛門が切れちゃう病気ですね。
正直、病気というにはごくごく軽くて、病気と呼べないものもありますが、これがしょっちゅう起きるとさすがにイヤですし、だんだん慢性化してしまいます。
もっとも『切れ痔』ができる原理はごくごく簡単なことで、せまいところに無理やり大きいものが通ったら切れたり、裂けるに決まってんじゃん!ということです。
扉に大きな力士がまっすぐ入ってきたら扉壊れちゃうよ!

ですから、肛門に大きな便、太い便、硬い便が通らなきゃいいわけです。
肛門は筋肉(内肛門括約筋)によって締められ便が漏れないようになっているわけですがゴムのようにある程度伸び縮みできます。
ただし、ゴムでも伸びきった状態からさらに引っ張るとちぎれてしまうように、肛門も拡がる(伸展)より無理に拡げようとすると切れてしまうわけです。

バチンですから、便秘で硬い便をしたり、強く力んで無理に便を出そうとすると肛門が切れたり、裂けたりしてしまうわけですね!
要するに

切れ痔の予防のポイントは
排便コントロールにて便を溜めず、程よい軟らかさの便を毎日するように心がけ、排便の時間を長くしないようにすることです。

排便コントロールでも・・・・・そんなこと言ったって・・・『便秘』が治らないんだから!と思う方もいるでしょう。
だいたいの『便秘がちの方』は『便秘』になってから『便秘薬』や『浣腸』で便を出し、それが便秘の治療と思っていませんか?
なら・・・・歯も『虫歯』になってから『歯を磨きますか?』
違いますよね?
『便秘にならないようにする』=『虫歯にならないように毎日歯をみがく』

『便秘にならないようにする』=『虫歯にならないように毎日歯をみがく』つまり、便秘になってからではすでに便は硬く、力まないと便は出ないわけですから、便秘にならないようにすることが便秘の治療なのです!
『切れ痔(裂肛)』の最も有効な治療法は、便秘にならないように緩下剤を使用し、軟膏・坐剤は切れた時だけ、数日使用する!ということでしょうか?
ですから『切れ痔』だけでなく『いぼ痔』にも言えることですが
切れてしまって痛い、腫れてしまって痛いというときには軟膏や坐剤で 切れているところを治したり。腫れを抑えるのが常套手段です。しかしそもそも
蚊がたくさんいる藪の中で『虫刺されの軟膏』を使用していても、また蚊に刺されればいつまでたってもかゆみはおさまりません

虫刺されですから、まず蚊のいる藪から出る。ことが大事!
つまり便秘にならないように便を軟らかくしていれば肛門にかかる負担は減り、結局軟膏坐剤も使用しなくてもOKというのが最良の治療です。
それでも蚊に刺されてしまった。いわゆる『切れた』『腫れた』の時に使用する軟膏等をストックに持っていればいいのです!

では、便秘にならないようにする便秘の治療とは?
→それは、また違う章でお話しするとして・・・・

みなさんは排便の時、少し前かがみになりませんか?
誰に教えてもらうわけでなくそうしていると思います。
それはなぜか?
便を出しやすくなるからです。前傾姿勢

それはなぜでしょう?

前傾姿勢人間は『直腸膨大部』に一度便を貯めるということを説明しました。
その便を排泄する際に前傾姿勢の方が便を出しやすいということです。
直腸がまっ直ぐになるわけですね。
ということは力の向きを考えると肛門の後方(背中側)にかかる力が大きいのは容易に想像できますね。
ですから『切れ痔(裂肛)』は後方に多いのです(約75%)。
直線的に負担のかかる前方がその次に多く約20%。
肛門の横に『切れ痔(裂肛)』ができるのは“まれ”です。切れ痔(裂肛)

さて、話を戻して『切れ痔(裂肛)』の症状の話ですが・・・
・『わかっているんだけど、、、油断してたらまた便秘になって、そのたびにいつも肛門切れて痛いです』
という方や
・『前は切れてもすぐ治っていたのに、、、最近は治らないんです。』
という方が結構多く外来にいらっしゃいます。
確かに『切れ痔(裂肛)』は最初のうちは軽く裂けただけ!なのですが、繰り返すことで切れたところは、治るときに、硬くなって治ります。
そうすると、硬いところは、負担がかかった時に、また切れやすく、どんどん深くなってきてしまいます。
そして潰瘍化して周りに堤防ができて(周堤)、便のカスや汚れが排泄(肛門の淵から出にくく)しにくくなり、そこがまた炎症し、さらに治りにくくなっていくのです。

炎症性ポリープ炎症性ポリープ例えば
川の流れに 1か所凹んだ場所ができると、そこに川の流れのよどみが生まれ小石が堆積し→さらにそのくぼみ凹の周りに小石が堤防を作りそこだけ川の流れが悪くなります。
切れ痔が深く(潰瘍化)なってくると、そこに汚物(便のカス)が溜まり、炎症を起こし、痛くなり、さらに潰瘍が深くなり、周堤が高く潰瘍が深くなって治りにくくなってきます。炎症性ポリープ

さらに、裂肛を繰り返していくと周囲の組織が寄り、それが瘢痕化し硬くなり、さらに全体の硬さとなり、どんどん肛門は伸展性の悪い狭い肛門になってきます。

伸展性の悪い狭い肛門伸展が悪く、狭い肛門は、さらに切れやすくなり、悪循環をたどることになります。

炎症性ポリープ『深い切れ痔(潰瘍)』に汚物(便のカス)が溜まりだすと、汚物が流れにくいためそこで炎症を起こし、強い痛みが出てきます。
まるで、おもちが「ぷくっ」と膨らむように・・・・炎症は周囲の組織の腫れを(炎症性ポリープ)生みだします。

炎症性ポリープ潰瘍の直腸側の炎症の腫れ
→『肛門ポリープ』
潰瘍の肛門皮膚側の炎症の腫れ
→『見張りいぼ』
と言います。

さて『切れ痔(裂肛)』の症状はというと・・・
・痛み
・出血
・排便困難
です。

いぼ痔『いぼ痔(痔核)』の章でもお話ししたように歯状線(しじょうせん)より下の肛門上皮・肛門皮膚は痛みに敏感な場所です
つまり、そこが切れて、炎症を起こすわけですから当然“痛い”です。
ただ外来では『切れ痔(裂肛)』の症状を『痛(いた)痒い』という表現をされる方が多いのも事実です。
もともと『痛い』と『かゆい』はそれを脳に伝える神経が違います。
(肛門のかゆみに関してはまた 章でお話します)
『痛い』は肛門上皮も皮膚も感じますが、『かゆみ』は皮膚の特徴的な症状です。
ですから『痛(いた)痒い』という症状は、『切れ痔(裂肛)』の症状に加えて放散的に皮膚にも炎症が加わっている可能性もあるのでしょう。
ですから、ごくごく軽い初期の『切れ痔(裂肛)』の痛みは『痛(いた)痒い』と表現されることも多いのでしょう。

『切れ痔(裂肛)』の痛みの特徴は基本、『排便時』ということです。
『ズキズキ』痛いほかに、『ジーン』と来る痛みがあります。
これは内肛門括約筋の『攣縮(れんしゅく)』いわゆる震えです。
慢性化し潰瘍が筋肉の近くまで深くなってくると『攣縮(れんしゅく)』を起こしやすくなり、排便時以外にも痛くなってきます。

攣縮(れんしゅく)

攣縮(れんしゅく)

出血次に『出血』です。切れたところから『出血』するのは当たり前です。
ただし何度も切れて、治って、切れて、治って、を繰り返すうちに瘢痕が硬くなり、血行が悪くなり、裂けたところは治りにくくなり、切れても出血しなくなってきます。まるで『かまいたち』に切られたように・・・・・

ですから、出血してないから『切れ痔(裂肛)』ではないとは言えません。
トイレが血で真っ赤になることもあるし、紙に付着する軽度のものまでありますが、出血の多さが『切れ痔(裂肛)』の程度と相関するわけではありません。

切れ痔(裂肛)排便困難は、まさに肛門が狭くなってくることによって便の通りが悪くなってくることによって起こります。
もっとも、深い『切れ痔(裂肛)』があって、痛みや恐怖心から便が通るときに無意識に肛門を締めてしまうことで、肛門がうまく開かないといった現象や、診察時に痛みや緊張で、肛門を締めてしまい『肛門が狭い』と診断されてしまうケースも多々あります。
確実に診断できるのは麻酔(腰椎・全身)により括約筋を弛緩(ゆるみ)させた状態での肛門の診察です。

このような先細りの筒(肛門径スケール)があります
このスケールを麻酔下に肛門内にやさしく挿入し、どこまで入るか?
で 肛門の狭さを測るものです。すると・・・・

肛門径スケールとなり、
通常の肛門は⑤まで入りますが狭窄の肛門は②までしか入りません。
視覚的に『狭窄を数値化』できます。
手術により肛門を拡張すると、この数値が②→⑤になり狭窄が改善され、切れやすい(裂けやすい)肛門が治ったという治療後の評価にも有効です。