『あな痔(痔瘻)』手術の実際

『あな痔(痔瘻 じろう)』とは?
『あな痔(痔瘻)』手術の実際

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寺田 俊明 Toshiaki Terada

寺田 俊明Toshiaki Terada

  • 理事長
  • 院長
  • 大腸肛門病センター長

寺田病院HP:
https://terada-hospital.or.jp/

痔瘻の手術にとって大事な点は
ばい菌の流入路である“入口”の処理です。
ばい菌の入り込んだ肛門陰窩は粘膜のめくれ込みを呈します(原発口) 
巣を作り、その内部の巣には、常にばい菌が居ついていて自然と閉じることの期待できない部分(原発巣)です。
いったん痔瘻が治癒したように見える期間があっても、粘膜のめくれ込み部分が残存していると、そこから再び汚物が侵入して炎症が再燃されてしまい膿瘍が溜まってしまいます。

つまり、

『ばい菌の流入路である“入口”の処理』
=『原発口+原発巣』の処理

が最重要課題です!
痔瘻を構成するものを 樹に例えるならば 
根は痔瘻入り口である原発口と感染の源である原発巣であり
幹は枝の部分は瘻管部分
そして枝先は二次口と言えます。

つまりこのような痔瘻という樹を枯らすためには原発口、原発巣である、樹の根っこ部分を処置することが最低限必要であり
そうすれば結果として枝である瘻管は必然と枯れていくというわけです。
これは浅い痔瘻だろうが深い痔瘻だろうが枝分かれした痔瘻(複雑痔瘻)だろうが同じことです。
そこに損傷した筋肉の再建(縫合など)を加えてなるべく術後後遺症(肛門が緩む)を少なくしていく手術が理想となります。

ポイント!

  1. 『あな痔(痔瘻)』は根っこ(原発口+原発巣)をきちんと処理することが基本
  2. 『あな痔(痔瘻)』は筋肉をなるべく温存し、二次瘻管は自然と枯れやすくさせる

では『あな痔(痔瘻)』の手術として実際はどのようなものがあるのでしょうか?
それはまず、先ほど話した痔瘻の深さと痔瘻のできた位置によります。

a)浅い痔瘻が後方にできた場合

この後方というのは時計で言うと4時から8時くらいまで
肛門の後方は筋肉が分厚いので『開放術式』という方法が可能です。
先ほど話した粘膜のめくれ込み『原発口』 と『原発巣』を取り除いた後、瘻管(トンネル)部の屋根を取っ払ってしまえば、ばい菌がくすぶって隠れるところがなくなるので、そのうち地面が盛り上がってくれば治るというものです。
この方法を『切開法 LayOpen法』といいます。

イメージ的には

という感じです。

側面から見ると

ということです。
肛門を下からみた図はこうなります。

b)
複雑(途中で瘻管が枝分かれ)化した症例でもやることは同じです。原発口+原発巣を切除し、瘻管を開放し、二次瘻管は二次口の拡げ、自然と枯れてくるのを待ちます。

c)浅い痔瘻が側方~前方にできた場合
この側方~前方というのは時計で言うと8時から4時くらいまで
肛門の側方、前方は筋肉が薄いので筋肉をなるべく温存し、切らないようにすることが必要です。
原発口からと二次口からと、なるべく瘻管(トンネル)部をくり抜いて外括約筋の貫通部分のみ残して外の瘻管(トンネル)部を取り除きます。
そして粘膜のめくれ込み『原発口』 と『原発巣』を取り除きます。
この方法を『くりぬき法 CoringOut法』といいます。
(ただし、すべての症例にこの方法ができるわけではありません。結果的に開放術式(LayOpen法)となるケースもあります)
イメージ的には
という感じですね。

側面からみるとという具合です。
肛門を下からみた図はこうなります。

d)
また原発口から二次口までの瘻管(トンネル)部がはっきりわかる場合にかぎり、ゴムを瘻管(トンネル)部に通し、ゴムをゆっくり時間かけて縛っていくことを繰り返すことで、筋肉を温存しながら創部を開放していくやり方もあります。
この方法を『Seton シートン法』といいます。
ただ、この方法は原発口がはっきりわかっている症例に限られます。
適当に『原発口はここだろう?』と、本来の原発口と違う誤った肛門陰窩にSeton(シートン)を通してしまうと、治らないばかりでなく医原性に複雑化させてしまいかねません。
肛門を下からみた図はこうなります。

e)
『あな痔(痔瘻)』が複数あってもやることは同じです。

最後に
f)深い痔瘻の場合
深い痔瘻の場合は、『原発巣が深くわかりにくい場合が多い』です。
それでも『粘膜のめくり込み部分=原発口』を同定し原発巣まで深く掘っていき
原発巣を開放する方法が基本です。イメージ的にはこんな感じです。
二次瘻管のトンネル部は、くり抜かなくても徐々に退化し無くなってきます。
この方法は『Hanley変法』というやり方です。
肛門を下からみた図はこうなります
そのほか、原発口+原発巣を切除した空間に筋肉を充填(埋め込み)し、創部を小さくさせる方法もあります。

このように
肛門科の専門病院はいろいろな手術方法を駆使して、患者さんの状態に最も良い方法を選択します。傷が小さいから良いのではなく、治らなきゃ意味がないのですから。